私とは何か――「個人」から「分人」へ

「分人」という、普段見なれない言葉に興味を引かれて読んでみました。
「分人」とは、たった一つの本当の自分など存在せず、対人関係ごとに見せる複数の顔があり、それは必ずしも同じではないが、それはすべて本当の自分であると示されています。そして、人間関係における、自己、人格、他者との関係、教育、仕事、コミュニケーション、恋愛、結婚、ウツ(新型ウツ)、そして死に至るまで・・。普段意識しているわけではないのですが漠然と思っている様々な物事を、この「分人」の概念を通じて緻密に整理して行く展開に、著者の思考の奥深さを感じてただ感心するばかりでした。(この本を読む前は「分人」とはいわゆる「ペルソナ」の事ではないのか?と思っていましたが「ペルソナ」とは自我(本当の自分)は1つで、複数の表面的な自分(仮面)を使い分けていくというまったく逆の考え方ですので、当然、いい意味で期待を裏切られたわけです。)
第5章「分断を超えて」で、著者は『私たちは、隣人の成功を喜ぶべきである。なぜなら、分人を通じて、私たち自身がその成功に与っているからだ。私たちは隣人の失敗に優しく手を差し伸べるべきである。なぜなら、分人を通じてその失敗は私たち自身にも由来するものだからだ。』と述べています。これは、人間が社会的な存在であり、他人とのかかわりの中で生きていていること。そして、利他的に生きることがなぜ、長期的な視点で自身の充実につながるのかという事に対して、他者との関係で生じる分人の集合が「自分」であることに基づいた、核心を突く重要な認識だと思いました。
これはたまたま、先月読んだ「イノベーション・オブ・ライフ」で示される考え方にも通じる所でもあり、分人という概念を理解することが自身にどういうインパクトを持つのかを考えるにあたり、とても納得感を得られたポイントでした。

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)